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2012/06/28
[ 落としブタ ]
 
小さな居酒屋の、小さな鍋の蓋の上に、妙なものが乗っている。
薄くて円くて柔らかそうな素材で、中央部が盛り上がっている。それだけなら最新型のステルス爆撃機のようだが、盛り上がりの左右に突起があって耳のようにも見える。

何だかよくわからないので店の人に聞くと、それをクルッと半回転させて見せてくれた。
突起はやはり耳だった。耳の手前は中央の盛り上がりがストンと切り落とされ、穴が二つ横並びに開いている。豚の鼻だ。よく見ると、耳と鼻のあいだに小さな点が二つ、すこし離れてついている、ちっこい目だ。中央の盛り上がりが豚だということを、これでやっと認識できた。しかも調理用具の落とし蓋だと聞くに及んで、”蓋”を豚に置きかえたデザイナーの遊び心に感服した。

ちなみに、鼻の穴は、蒸気を逃がすためのものだそうだ。豚が鼻から蒸気を噴き出す姿を想像するだけで、楽しくなる。

これを壁に掛けて楽しもうと思い、入手した店を聞き出してさっそく買いにいった。ところが、商品棚のフックに掛かっているのを見たらとても豚に見えない。落とし蓋の状態で斜め上から見て、はじめて”豚”になるのだ。しかも、鼻の穴に菜箸を差し込んで”落とし豚”を出し入れするイラスト付きだ。
鼻息のごとく蒸気を噴きだす穴に、箸など突っこまれたら豚がクシャミするではないか。かわいそうに。

”落としブタ”って、もしや自分の顔に似せてつくってあったりして・・・。


・・・・・このデザイナーはただ者ではない。次の作品を期待しよう。