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2013/01/14
[ 旅人さん ]
 
>>子供の頃、母親によく聞かされた昔話<<

ある日の夕方、お腹をすかした旅人さんが山道を歩いていると、遠くの方に明かりがポツンと一つ、見えてきました。ホッとして近づくと、そこは山の中の一軒家、おばあさんが一人で住んでいました。
やっとたどり着いた旅人さんが「一晩泊めて下され」と頼み込むと、おばあさんは「どうぞ、どうぞ」と旅人さんを招き入れ、たくさんご馳走しました。
おばあさんは旅人さんに「仏壇にお経を上げたいんだが、わしはお経というものを知らん。一つお経を教えてくれんかな」と、お願いしました。ところが旅人さんは、お経というものを一度も読んだことがありません。

一宿一飯のお礼もかねて、仕方なく「ではやらせていただきます」と、ともかく仏壇の前に坐りました。
どうしようかと困っていると、向こうの壁の穴からネズミが一匹、こちらを覗いています。それを見た旅人さんは「オンチョロチョロ穴のぞき候」と唱えました。おばあさんも「オンチョロチョロ穴のぞき候」と続きました。
すると今度はネズミが「チュー」と、ちいさく鳴きました。旅人さんは「オンチョロチョロささやき候」、おばあさんも「オンチョロチョロささやき候」
次にネズミは穴から出て来ました。「オンチョロチョロ出てまいり候」と旅人さんが言うと、おばあさんも「オンチョロチョロ出てまいり候」
最後にネズミが元の穴に帰っていくと「オンチョロチョロ帰られ候」。おばあさんもまた「オンチョロチョロ帰られ候」と唱えました。

旅人さんが帰った後、おばあさんは毎日、仏壇の前でこのお経を唱えていました。

ある晩のこと、泥棒がやってきて戸の隙間からのぞいてみると、仏壇に向かったおばあさんの後ろ姿が見えました。おばあさんは「オンチョロチョロ穴のぞき候」と唱えました。泥棒はびっくりして、「後ろを向いているのに、どうして覗いているのがわかるんだろう」と小声でささやくと、おばあさんは「オンチョロチョロささやき候」と唱えます。泥棒はもっとビックリして、中に入って確かめようとしました。すると今度はおばあさんが「オンチョロチョロ出てまいり候」

「これは全部お見通しだ!」と、泥棒は怖くなって出て行こうとすると「オンチョロチョロ帰られ候」

泥棒は腰を抜かして、大あわてで逃げかえりました。とさ!・・・オシマイ